第三部、第四部

第三部

    1
   ラスコーリニコフは再会したばかりの母と妹に帰るように促す。母は去り難い気持ちを言うが、ドゥーニャは兄を苦しめていると言う。ラスコーリニコフはルージンとのやりとりを話し、ドゥーニャに婚約を破棄するように話す。彼女はラスコーリニコフのために結婚しようとするのであって、その犠牲は為してはならないと。母妹はラズーミヒンに伴われて部屋を出る。
 ラズーミヒンはナスターシャをラスコーリニコフのもとに付け、彼の様子を知らせること、医者のゾシーモフに診させることを約して、母妹を宿舎に送って行く。道々ラズーミヒンは彼ら一家に尽くすことを表明する。ルージンが決めた下宿に案内するが、その場所が適切でないと、ドゥーニャの未来の夫を批判する。
 ラズーミヒンはドゥーニャに愛情を抱く。ラズーミヒンは戻って来てラスコーリニコフはよく眠っていると告げ、更に医師ゾシーモフに診せた後、彼を伴って来る。ゾシーモフは二人に安心するように話す。

    2
 朝起きてラズーミヒンは人物さえよく知らずに、ドゥーニャの婚約者ルージンを罵倒したことを忌まわしい行為と思った。ラズーミヒンはラスコーリニコフの母と妹が泊っている宿に赴く。ラズーミヒンはもう三年もラスコーリニコフに会っていない母妹に彼のことを話す。曰く「冷淡で人情味が無いことがあったり、異なった性格が入り混じっている。ロージャは人を愛さない」とも。  ラズーミヒンは母と妹の身なりが貧しいことに気づき、恐ろしさを覚える。 ラズーミヒンはドゥーニャが兄そっくりと言う。ロージャとルージンの会見が話され、ラズーミヒンはラスコーリニコフを非難する。  ラズーミヒンは母から渡されたルージンの手紙を読む。手紙中でラスコーリニコフが無礼をはたらいた故に会いたくないと述べていた。ドゥーニャはふたりを同席させると言う。  母と妹はラスコーリニコフの部屋へ来る。

    3
 母と妹がラスコーリニコフの部屋を訪ねる。ラスコーリニコフは健康と言ってよかったが、顔色悪くぼんやりした様子だった。ラスコーリニコフは昨日マルメラードフが馬車に轢かれて亡くなったこと、母から送ってもらった金を与えてしまったことを話す。
 ラスコーリニコフはドゥーニャとルージンとの結婚のことを反対だと言い出す。ドゥーニャは犠牲ではないと主張する。そしてまだ人を殺してなどいないという言葉を発する。プリへーニャにはラスコーリニコフが気絶したように見えた。ラスコーリニコフはルージンが母に宛てた手紙を読み中傷されていると言う。ラスコーリニコフがルージンと母と妹との会合には出席しないようにと書かれていることに対し、ドゥーニャは兄に出席して欲しいし、ラズーミヒンにも来て欲しいと告げる。

    4
 ラスコーリニコフの部屋にソーニャが訪ねて来る。マルメラードフの葬儀に参加して欲しいというカチェリーナ・イヴァーノヴナの望みを伝えるために。ソーニャとプリヘーリャとドゥーニャとの顔合わせには複雑な雰囲気がある。ルージンが手紙で母妹に明かした「いかがわしい生業を営む娘」のことを考え、ラスコーリニコフは積極的に向かえ、母と妹に紹介する。
 ソーニャはラスコーリニコフが与えたお金で法事が出来ることを話し、来てくれるように告げる。 母妹はラズーミヒンをも食事に誘い、部屋を去る。母妹の会話にルージンを咎めるドゥーニャの言葉がある。ラスコーリニコフはラズーミヒンとともに予審判事ポルフィーリイを訪ねに出かける。
 帰り道でソーニャをつける男が登場。男はソーニャの借りている隣の部屋に下宿している。  道々ラスコーリニコフは部屋でのラズーミヒンの態度をからかう。

    5
 部屋に入ってポルフィーリィに自己紹介しようとしながらもラズーミヒンとのそれまでの話に笑い出してしまう。ラズーミヒンはこのからかいにテーブルを殴って倒れてしまう。ポルフィーリィはその光景を愉快と感じた。 ポルフィーリィは老婆への入質者のうち出頭しなかったのはラスコーリニコフのみと告げる。ラスコーリニコフは警察が真相を知っているかどうかが分からずいらいらする。

 ポルフィーリーが宴会での議論を言い出す。「犯罪は社会制度の不備に対する抗議だ」と。ラズーミヒンは応じて「もし社会がノーマルに組織されたらすべての犯罪は消滅する」と自説を述べる。  ポルフィーリーは定期新聞にラスコーリニコフが書いた「犯罪について」の論文を話題にする。ラスコーリニコフは不法や犯罪を行い得る権利を持つ人間のことを書いた。「凡人」と「非凡人」について二人は論じる。ラスコーリニコフは『非凡人』は、全人類のために救世的意義を有する場合には、ある種の障害を踏み越えることを、自己の良心に許す権利を持っている、それに対し凡人は服従的であると言う。 また「非凡人」は極めて稀で、ポルフィーリーが心配するほどではないとも。犯罪が行われて捜し出されたなら自業自得と。良心のある人間は自分で苦しむ、それが罰と。 ポルフィーリーがラスコーリニコフに自身が踏み越えて殺人を犯すかと問うと、ラスコーリニコフは相手には伝えないと傲慢な軽蔑を持って言った。
 ポルフィーリーはラスコーリニコフにペンキ屋を目撃しなかったと問う。これはポルフィーリーのわなであった。それをラスコーリニコフは看破る。

    6
 警察署を出た後ラスコーリニコフとラズーミヒンはポルフィーリィの応対について話し合う。ラスコーリニコフはポルフィーリィは真実を掴んでいないと考えている。ラズーミヒンは警察署関係者がラスコーリニコフに疑いを抱いていることに憤慨している。ラスコーリニコフは教養と経験のある人間の表明のしかたは別だと述べた。突然ラスコーリニコフは不安になり、自分の部屋に戻って老婆から奪った品を隠した穴を調べた。
 男が訪ねて来たことを知らされて追いかけた。その町人に近づいて問いかけたラスコーリニコフに「人殺し」と言う。ラスコーリニコフは部屋に戻って長いすに寝てしまう。彼は老婆の脳天を打ちすえる夢を見る。夢が覚めると男がいて、アルカージイ・イヴァーヌイチ・スヴィドリガイロフと名乗る。


第四部

   1
 スヴィドリガイロフは二つの訪ねて来た理由、ラスコーリニコフと親しくなりたい、またドゥーニャに会見したいことを述べた。
  ドゥーニャに言い寄ったことについては駆け落ちを言い出したことは理性の故で、理性は情欲に奉仕するものと述べる。彼自身が悪人かもしくは犠牲なのかとも。ラスコーリニコフは帰れと言う。スヴィドリガイロフはマルファ・ペトローヴナの死には自分の疑いは無いと語る。スヴィドリガイロフはマルファ・ペトローヴナと結婚したいきさつを語り、その際マルファは彼の借金を肩代わりして支払い、その証文を他人名義にして彼を拘束していた。しかし結局はその証文を返し、まとまった金をも添えた。スヴィドリガイロフは幽霊についての経験談を語る。
 スヴィドリガイロフはルージンとドゥーニャとの婚約の破棄から生じる損害を軽減するため、一万ルーブリを贈呈したいと言い出す。ラスコーリニコフは「許すべからざる暴言」と怒る。スヴィドリガイロフはドゥーニャにぜひ会いたい、かつマルファの遺言でドゥーニャに三千ルーブリが送られると告げる。
 スヴィドリガイロフは部屋の出でしなにラズーミヒンに出遭う。

   2
 ラスコーリニコフはラズーミヒンにスヴィドリガイロフのことを説明する。「ぼくはあの男が恐ろしくてたまらない」と言う。二人は彼からドゥーニャを守ると話し合う。ラスコーリニコフは、もしかすると自分はほんとに気違いで、幻を見ただけかも知れない。この二、三日の間にあったことは想像の産物かも知れないと。
 彼らはルージンとともに母妹のいる部屋に入る。暫くはスヴィドリガイロフの話題となる。スヴィドリガイロフはペテルブルグへ出てきた。ルージンはスヴィドリガイロフにまつわる事件のことを話す。マルファ・ペトローヴナの尽力によって事件はうわさだけで済んだのだった。
 ラスコーリニコフはスヴィドリガイロフの訪問を受けたことを話し出し、皆は驚く。スヴィドリガイロフはドゥーニャと会見したいと、またマルファ・ペトローヴナがドゥーニ三千ルーブリの遺産を残したと告げたと。母ぺリへーリャは「ありがたいことと」と言い。ドゥーニャに祈るようにと促す。
 ラスコーリニコフはルージンの前ではドゥーニャにスヴィドリガイロフの申し出のことは言わない。ルージンもラスコーリニコフの前では重要な二、三の件については話さないと言い出す。ラスコーリニコフとの同席拒否が受け入れられない故と。ドゥーニャは自分の意思で同席を主張したと述べ、二人の仲直りがなければどちらかを選ばなければならないと主張する。ルージンは兄弟よりも伴侶を優先すべきと主張する。
 ルージンはプリヘーリャに向かって「貧しい娘との結婚はそうではない娘とのそれより道徳的に有益」と言い、ラスコーリニコフがそれを非難したことの原因が彼女の手紙の内容にあるのではと質した。プリヘーリャは母妹がルージンの考えを悪く取らなかった故ペテルブルグへ出て来たと言う。
 ラスコーリニコフがマルメラードフが死んだ際に一家に与えた金のことにまつわり、ソーニャの行状が言い出されて、両者の対立に妥協の可能性が無くなった。更にプリヘーリャがルージンの命令的な書き方を非難すると、ルージンはドゥーニャに残された三千ルーブリの遺産が母妹の態度の変化の原因と言い出し、かつスヴィドリガイロフの申し出をにおわすに至り決裂は明白となった。ルージンはドゥーニャの風評を無視して結婚を申し出たのだから、その名誉回復の報酬を当てにしてもよいのではと言い出し、両者は完全に決裂した。
 しかしルージンは、部屋を出つつ、事ここに至ってもなおふたりの婦人に関しては関係回復の見込みがあると考えていた。

   3
 ルージンはラスコーリニコフ一家との決裂は予想外であった。それは彼の虚栄心と自惚れの自己過信の故であった。その真価が認められず、この上ない侮辱と感じた。
 ドゥーニャはルージンのことを見誤っていたとラスコーリニコフに謝る。母プリヘーリャは成り行きに翻弄されながらもマルファからの三千ルーブリの遺産にほっとしている。
 ラスコーリニコフはスヴィドリガイロフとの会見のことを話し、彼がドゥーニャに一万ルーブリを提供したいと、また彼女との会見を強く希望していると告げる。ラスコーリニコフはそれを断ったと告げるが、ドゥーニャはひどく恐れる。
  ラズーミヒンはマルファからの遺産と自分の叔父からの資金を基に出版業を始めることを提案する。
 ラスコーリニコフはその場から急に去ろうとする。母と妹をラズーミヒンに託して、暫く会わないと言い出す。
 ラスコーリニコフとラズミーヒンの別れ際に二人の間にある想念がまるで暗示のようにすべり抜けた。なにかしら恐ろしい醜悪なものが突如として双方に会得された。
 この晩からラズーミヒンは母妹にとって息子とも兄ともなった。

   4
 ラスコーリニコフはソーニャの部屋を訪れる。ソーニャはカチェリーナ・イヴァーノヴナを強く弁護する「あの人は正しい人です」。ラスコーリニコフのソーニャのみが一家の生活を支えているのでは?の言葉に、ソーニャは苦しさを話す。そしてマルメラードフやカチェリーナにより親切であればよかったと心情を話す。ラスコーリニコフの、生活がより困窮したらどうなるかの問いに、ソーニャは「神さまはそうさせない」と言う。
 そのようなソーニャの態度にラスコーリニコフは突然彼女の足に接吻し「ぼくは人類全体の苦痛の故に頭を下げた」と言う。「役にも立たないことのために、自分を殺した罪人で、そのけがらわしさと正反対の神聖な感情が両立しているのは何故か?いっそ死なないのは何故か?」と問う。ソーニャは「一家はどうなるか?」と問い返す。ラスコーリニコフはソーニャは発狂するのではと考える。
 さらに追及するラスコーリニコフにソーニャは神への信仰を告げる。
 ラスコーリニコフはリザヴェータが持って来、彼女らが一緒に読み話し合った聖書の「ラザロの復活」を読むように言う。最初は躊躇したソーニャもラスコーリニコフに読み聞かせようとする気持ちを強くする。
 ラスコーリニコフは二人は踏み越えたのだ、一緒に同じ道を行くべきと告げる。また彼女に話すのも最後かも知れない、もし明日来たら誰がリザヴェータを殺したかを言おうと言って部屋を去る。
 彼らのいた部屋の隣の部屋で、スヴィドリガイロフが一部始終を聞いていた。

   5
 ラスコーリニコフは警察署にポルフィーリーを訪ねた。ラスコーリニコフは警察が彼が出頭するのを待ち構えていると思ったが、予想外であった。ポルフィーリーを恐れていると思うと憤怒で胸が煮えたぎった。
 ポルフィーリーは愛想よく迎えたが面くらっている風情であった。ラスコーリニコフが差し出したアリョーナに質入れした時計に関する書類にもポルフィーリーは強い関心を示さなかった。ラスコーリニコフは容疑者を油断させておいて、きめ手になる質問をいきなりあびせ、相手の度肝を抜くつもりかとの問いにポルフィーリーはまともに取り合わず笑いで返す。
 ラスコーリニコフは尋問をせよ、そうでなければ早々に帰ると告げると、ポルフィーリーはそれをなだめ、最初はとりとめのない話をするが、そのうち裁判事例の話に移り、ラスコーリニコフの行動を解説するような架空の話をする。その言い様にラスコーリニコフは激高し、老婆殺人事件の犯人と考えるなら逮捕するようにと言う。これに対するポルフィーリーの態度は彼を疑ってはいないも同然であった。ラスコーリニコフの様子を病気と気遣う。
 ポルフィーリーはラスコーリニコフが事件にかかわっているなら、正気でやったと言いはしないだろうと強調する。またラスコーリニコフに自分(ポルフィーリーのこと)を信じるようにと、かつ嫌疑をかけていないと言う。ラスコーリニコフは疑っているのかそうでないのかをはっきりさせよと叫ぶ。激高する彼をポルフィーリーは静かにするよう命令的に言う。もてあそぶのを止めろと言うラスコーリニコフにポルフィーリーはドアの向こうにあるものを見せると言う。その後起こったことは二人の予想できないものだった。

   6
 隣の部屋から物音が聞こえ、「未決囚のニコライを連れて来た」と言う。平民の服を着た若い男が入って来た。彼の高利貸アリョーナ・イヴァーノヴナとその妹のリザヴェータを殺したという言にポルフフィーリーは狼狽する。彼はまごつきながらもラスコーリニコフに去るように促す。ラスコーリニコフの「思いがけない贈り物を見せてくださらないのですか?」の問いに、ポルフィーリーは「あなたも皮肉な人だ。いずれ改めて」と答える。ラスコーリニコフが聞きつけた、ポルフィーリーがニコライに言った「うそをつけ、腹にもないことを言う」のことを言うと、ポルフィーリーはゴーゴリのユーモアの天分と応じる。
 ラスコーリニコフは家へ帰り、頭をめぐらす。虚偽は暴露されないはずはない。ポルフィーリーの作戦の一部はラスコーリニコフに誰よりもよく分かった。もう一歩で正体を現わしてしまったかも知れなかった。「思いがけない贈り物」とは何だったのだろう。昨日の男はどこへ行ったのか。
 ドアが開いて大地からわき出たような昨日の男が現れた(第三部 6)。男は自分が悪かったと言う。彼は毛皮商売の町人で、ラスコーリニコフが殺人事件があった家を訪れた際に門の下にいたと(第二部 6)。ラスコーリニコフはこの男が何の証拠も持っていないことを理解する。そして「思いがけない贈り物」とは彼のことだと。男はラスコーリニコフがポルフィーリーのもとへ来る前にポルフィーリーと話をし、その後隣の部屋で二人の話を聞いていた。男はラスコーリニコフを讒訴したことを謝った。ラスコーリニコフは元気を取り戻す。自分の「気の狭い行為」に侮蔑と羞恥の念を覚える。